日本への外国人旅行者が増えて日常で英会話を使う機会や、ビジネスでも英語を使う機会が増えてきた今、英会話を上達させたいと思っている方は多いのではないでしょうか。それでは、英会話を上達させようと思った時、みなさんは何から勉強を始めますか?多くの方は、英会話教室に通ったり、オンラインで話し相手を見つけたりと、まずは英語で会話する機会を増やそうとするのではないかと思います。それが悪いわけではありません、むしろ、英語を話せば話すほど英会話は上達します。
しかし、実は、英会話をより上達させようと思ったときに、見逃しがちな重要なポイントがあります。それは、英単語のリスニング力です。単語のリスニング力を上げることと英会話の上達とどのような関係があるのか、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、地味な作業に思えて見落とされがちな英単語のリスニングが、なぜ英会話の上達に重要なのか、そしてその具体的な勉強法も合わせて紹介していきたいと思います。
なぜ英単語のリスニング?
まず、単語のリスニング力が英会話の上達に重要なのは、なぜでしょうか。それは、そもそも相手が発した単語が聞き取れないと、相手が何を言っているかわからないからです。例えば、相手がI’ve got a persistent cough lately. (「最近しつこく咳が出るんだ。」)と言ったとします。普通の会話であれば、「そうなんだ、大丈夫?」とか、「どうしたの?風邪?」と会話が進むところですが、もし例文内の目的語であるcoughという単語が聞き取れなければ、相手が何に困っているのかがわかりません。あるいは、単語自体の意味を知っていても、自分がその単語の発音を間違えて認識しているがために聞き取れない、ということもあると思います。
もちろん、persistentやlatelyという修飾語が聞き取れなかったとしても、相手の意図の酌むのに支障はありません。しかし、文章全体に影響を与える肝心な単語が聞き取れなかった場合、どのような反応をしたらいいかもわからないですし、聞き返したくても、相手の会話の腰を折って質問するタイミングを逃してしまうかもしれません。1対1で話しているならまだしも、大人数で話している場合は単語一つにつまずいて考えていると、自分は参加できないまま会話がどんどん先に進んでいってしまうのです。
反対に、自分が話をする際も、自分が言いたいことを的確に表す単語がわからなかったり、わかっていても発音が違っていたりすると、相手にきちんと理解してもらえません。最近公開された映画Silence (2016)の中では、日本人がポルトガル人のキリスト教宣教師にある単語を発するのですが、その単語の発音が間違っていて、理解してもらうのに時間がかかる、という場面があります。単語を文字で見て意味も知っていたとしても、発音が異なると相手にはうまく伝わらないのです。 言いたいことが伝わらず、もやもやしてしまうかもしれないでしょう。
英単語のリスニング勉強法
では、このようなことを防ぐために、どのように英単語のリスニング力を上げたら良いでしょうか。今回の記事では、三種類の方法を紹介したいと思います。
1. 電子辞書およびインターネット上の辞書の発音機能を使う
これまでの学生生活で、「辞書は紙の辞書を使うべき」という提案を何度も耳にした方が多いのではないでしょうか。確かに紙の辞書にたくさん利点はありますが、私は電子辞書にも紙の辞書と同じくらい、あるいはそれ以上の利点があると考えています。
その利点のうちの一つが、発音機能です。新しく単語を調べたとき、意味を確認するだけでなく、必ずその発音もチェックするようにしましょう。そして発音機能の後に続いて、自分でも発音するようにしましょう。これをすることで、その単語の正しい発音、アクセントを身に付けることができます。
もちろん紙の辞書の発音記号を使って発音を知ることも可能です。しかし、実際に人の声で発音されたときに、その単語が自分にとってどう聞こえるか、ということを知っておくことは、とても重要なことなのです。例えば、最初に例で挙げた単語、coughは、日本人には間違いやすい単語のうちの一つだと思います。スペリングだけを見れば、「コウグ」とかそんな風に発音したくなりますが、実際の発音は「コフ」のような感じになります。発音機能を使って実際の発音を確認することで、スペリングと発音の大きな相違に早い段階で気づき、次にその単語を耳にしたときにきちんと理解することができるでしょう。英単語の発音を正しく把握すること、それが英単語のリスニング力をあげる第一ステップなのです。
2.アプリを使ってリスニング練習
現在は英語学習のためのアプリがたくさん開発されており、そのうちの多くが無料で提供されています。ですので、それらを活用しない手はありません。
私の経験上、特におすすめなのが、スクリプトを読みながらリスニング練習ができるアプリです。例えば、アメリカ英語や様々なアクセントの英語の練習をしたければ、TOEIC presents: English UpgraderというTOEIC対策アプリ、イギリス英語が良ければBBCの英語学習者向けアプリなどが使いやすいです。よく、英語に慣れるために英語を聞き流しにするといいと言いますが、ただ単に聞き流しているだけでは、わからない単語があったときに確認する術がありません。そこで、こういったアプリを使い、スクリプトを目で追いながら、「ああ、この単語はこうやって発音するんだな」とか、「この単語とこの単語が並ぶとこうやって繋がって聞こえるんだな」という、自分なりの発見を増やしていくことが大事なのです。ですので、リスニングをするときはなるべくスクリプトを読みながら英語を聞くことをおすすめします。
3. 映画の字幕を活用する
最後に、アプリよりも楽しめそうな方法を紹介します。アプリでスクリプトを読みながらリスニングをするのと同じような効果を得られるのが、英語の映画を英語の字幕付きで見るということです。また映画には、スクリプトを読んで単語のスペリングを確認する以外にも、映像とともに英単語を覚えることができるという良い点があります。
ただ、重要なのは、映画の字幕はせりふとともにすぐに消えてしまいますから、知らない単語が出てきたときには映像を一時停止して、単語の意味を調べる必要があるということです。しかしこれをすることで、スペリング、発音、意味、そしてその単語から連想される映画のシーンを同時に頭に入れることができるので、単語が記憶に残りやすくなると言えるでしょう。
見終わるのにいつもより2倍の時間がかかってしまうかもしれませんが、1度見たけれど何度見ても好きな映画、あるいはプロットを完全に理解していなくてもなんとなく楽しめるようなコメディなどをピックアップするといいかもしれません。
実践で使える小ワザ
さて、これまでに紹介してきた英単語のリスニング力をアップさせる勉強法を、地道にこつこつと進めていき、単語のリスニング力や語彙力が上がってきたとします。しかしそれでも、実際の英会話になったとき、これまで勉強してきた全てをすぐに実践に活かせるとは限りません、まして相手は人間ですから、相手に訛りがあって聞き取りづらかったり、相手の癖によって聞き取りづらかったりすることもあるかもしれません。
そんなときに、Sorry? Pardon?(「すみません、もう一度言ってください」)と言って会話の流れを完全に止めてしまわずに、聞き取れなかった単語を聞き出す小ワザを紹介しておきます。
2.聞き取れたところまでは繰り返して言ってみる
この方法は、英語が母国語の人や英会話に慣れ親しんだ人であれば、自然とやっている方法かもしれません。この記事の最初に挙げた文、I’ve got a persistent cough lately. (「最近しつこく咳が出るんだ。」)を例にとって説明していきます。
例えば、相手がこの文章を言ったとき、I’ve got a…まで聞き取ることができたとします。それで文章の全てを諦めてしまう必要はありません。そんなとき、相手に「自分はここまでは聞き取れている」ということをわかってもらい、「だけどここの部分が聞き取れなかった」という主張をするために、自信を持って次のような聞き返し方をしてみましょう。
—I’ve got a persistent cough lately. (「最近しつこく咳が出るんだ。」)
—You’ve got a what? (「なにが出るって?」
簡単に解説すると、聞き取れた「相手が何かを持っている」という部分だけを繰り返して言い、わからなかったところだけをwhatという単語に置き換えて質問するのです。IをYouに変えて聞き返すのが難しければ、I’ve got a what?でも問題はないと思います。その他にも例文を挙げてみます。
—I’ve heard 60 percent of the population of this town is under 25. (「この街の人口の60パーセントは25歳以下だって聞いてるよ。」)
—60 percent of what? (「なんの60パーセント?」)
—You need to go to the reception first. (「まずは受付に行く必要があります。」)
—I need to go to where, first? (「まずはどこに行く必要があるんですか。」)
などなど、わからなかった単語が物ならwhat、人ならwho、場所ならwhereと疑問詞を変えて聞き直せば良いのです。この聞き方だと、相手にどこまで自分が理解しているのかを伝えることができますから、聞き返したい単語をピンポイントで質問することができるのです。
2.単語の置かれた位置から判断する
次に、これは少し高度かもしれませんが、聞こえた単語が文章のどこの位置に置かれているかという情報から、文法的にその単語が何を表しているか、ということを想像する、という手があります。
例えば、冠詞であるaやtheの後の単語が聞き取れなかったとしたら、その単語は名詞のはずです。反対に、聞き取れた単語がもし名詞であれば、その前後の単語は形容詞や修飾語、あるいはその名詞に繋がっている動詞である可能性が高いです。このように、文法上のルールを頭に入れた上で相手の発言を聞くようにすれば、単語を一つ一つ全て聞き取ろうとしなくても良いということになります。聞き取れた単語から想像し、聞き取れなくても相手の意図を酌むのに支障がない単語は、わざわざ聞き返さなくてすむようにしてみましょう。
3.強調されている単語を確実に聞き取る
最後に、英会話において最も重要であると思われる、会話中の強調された単語の意図について説明します。これはよく、センター試験や私大入試の問題になることもあるので、一度は問題を解いた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。問題の例を挙げてみます。下の例題のうち、下線部が引かれたyouが強調されていたら、相手の意図は1から4のうちどれになるでしょうか、という問題です。
Can you come to dinner on Friday at eight?
- I know your friend can’t come, but can you?
- If lunch is inconvenient, what about dinner?
- If you can’t come on that day, how about Friday?
- You work until seven? How about an hour later?
この場合、youが強調されていますから、他の誰でもなく「あなたが」ディナーに来ることができるか、という質問ということになります。したがって、正答は1になる、というような問題です。
このような大学入試問題で身に付けた知識と読解力は、実は実際の会話で非常に良く役立ちます。それに、英語が母国語の人はこういった強調をとても頻繁に使うので、この単語の強調をマスターすることで、英会話の質が上がることは間違いありません。
会話の中で強調された単語を聞き取るのは、さほど難しいことではないと思います。というのも、会話の中である単語を強調したいとき、話者はその単語をゆっくりと、確実に発音する傾向にあるからです。ですので、相手の会話の中でゆっくりはっきりと発音している単語があったとしたら、その単語がその発言の中で、最も重要な単語であるということになります。その単語を集中して聞き取るようにし、返事もその単語を中心に答えるようにしましょう。
最後に
今回は英会話の上達のために、英単語のリスニングがなぜ重要なのかということ、そして英単語のリスニング力を向上させるためにはどのような勉強をすれば良いのか、ということをご紹介してきました。文法を習得するのと違って、単語単位での勉強はきりがないと言っても過言ではないでしょう。しかし、実際に日常生活で出くわした単語や、以前に言われてわからなかった単語などを率先して習得していけば、必ずまたどこかでその単語を使う機会に巡り合うはずです。地道な作業ですが、今回ご紹介した勉強法で単語のリスニング力を上げながら、実際の会話で実践に移してみる、ということを繰り返していきましょう。すでに述べたように、相手の発言を一語一句完璧に聞き取ろうとする必要はありません。まずは聞き取れた単語から想像する、あるいは重要な単語だけ聞き取るようにするところから始めれば良いのです。リラックスして英会話に臨みましょう。この記事が少しでもみなさんの英単語のリスニング力の向上と、英会話の上達にとってお役に立てれば幸いです。